Takako Nakayama Labor and Social Security Attorney Office

睡眠と働き方改革

健康経営は、従業員が健康に働けることを経営上重要と捉え、従業員の健康を企業経営における経営課題とする考え方ですが、この健康経営は、「働き方改革」とも大きく関係してきます。

この「健康経営」市場の規模は、2016年に1兆3,600億円で、2020年には1兆6,700億円に達すると予想されています。(調査会社シードプランニングのプレス発表による)

市場規模の拡大からも、健康経営への企業の関心の広まりが感じられます。

健康経営の中でも、特に「睡眠」への関心が高まっているようです。

睡眠不足が労災事故の原因となったり、職場での風邪の蔓延の原因となったりもします。

ところで、睡眠においては、「睡眠時間の長さ」「睡眠の質」の2つの視点が重要です。

特に、「睡眠時間の長さ」は、労働時間と表裏一体で、次の3つの数字は密接に関連します。

・睡眠時間6時間

・過労死ライン月80時間残業(行政指導の基準)

・勤務間インターバル11時間

睡眠時間が6時間未満(5時間以下)になると、労災認定対象となる脳・心疾患および精神障害を患う可能性が高まるとの研究報告※1があり、この研究結果をもとに月80時間残業が過労死ライン(行政指導レベル)※2として設定されています。

月80時間残業は、月平均20日勤務とすると1日当たり4時間の残業です。

1日は24時間ですので、睡眠時間を6時間確保するためには、次の計算になります。

■24時間ー20時間(睡眠6時間+通勤2時間+生活3時間+勤務9時間)=4時間

 ※通勤時間は往復で2時間、最低限日常生活に要する食事・入浴等の時間を3時間と仮定

 ※労働時間8時間+休憩1時間=勤務拘束時間9時間と仮定

つまり、1日4時間を超える残業をすると、睡眠時間が6時間未満となり脳・心疾患・精神障害の可能性が高まるということになります。

これを、勤務間インターバルの視点から計算し直すと、

■24時間ー(勤務9時間+残業4時間)=11時間(睡眠6時間+通勤2時間+生活3時間)

つまり、睡眠6時間を確保するには、勤務間インターバル(勤務終了後、翌日の勤務開始までの休息)は、最低限11時間必要となります。

まとめると、睡眠を6時間確保するためには、

・残業1日4時間(月80時間)⇒労働時間からの規制

・勤務間インターバル11時間⇒休息時間からの規制

が必要ということになります。EU諸国では11時間の勤務間インターバル規制が導入されています。日本では、現在導入が検討されている所です。

また、睡眠の長さだけではなく、「睡眠の質」に関する企業の関心が高まっています。

睡眠の質は、「生産性の向上」にも影響を及ぼすからです。

「健康経営」の視点から、睡眠の質に着目した対策を従業員への福利厚生として行っている企業も増えているようです。

※1 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「長時間労働と健康問題」

※2  厚生労働省リーフレット「過重労働による健康障害を防ぐために」(PDF)